千葉地方裁判所佐倉支部 昭和56年(ヨ)46号 決定 1981年9月01日
債権者 上野昭八
<ほか三五四名>
右債権者ら訴訟代理人弁護士 田村徹
<ほか二二名>
債務者 ノース・ウェスト・エアラインズ・インコーポレイテッド
日本に於ける代表者 ジョン・エフ・ホーン
右訴訟代理人弁護士 福井富男
同 神崎直樹
主文
債務者は債権者らに対し別紙一時金目録記載の金員を仮に支払え。
申請費用は債権者の負担とする。
理由
当事者間に争いがない事実、疎明及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を一応認めることができる。
1 債権者らは、債務者(以下、会社ともいう。)に雇用され、東京、沖縄、成田等各地区の支店、営業所に勤務し、ノースウェスト航空日本支社労働組合(以下、組合という。)に所属する組合員であり、会社は、航空運輸を業とし、雇書地住所地に本社を有する外国法人である。
2 昭和五六年五月四日、組合は会社に対し、「一九八一年度夏期一時金及び格差調整金等に関する要求」と題する書面をもって、昭和五六年度夏期一時金として、基礎額(八一年度春闘妥結額)×四・二ヶ月+一〇万円の支給を要求した。これに対し、会社は、同月一九日、「会社回答」と題する書面をもって左記のとおりの回答をした。
記
支給額 基礎額×三・五ヶ月
基礎額とは、一九八一年五月三一日現在当該従業員に適用される基本月給、住宅手当、扶養家族手当並びに運転手当の合計額をいう。
夏期手当期間 一九八〇年一二月一日から一九八一年五月三一日まで。
受給資格 (略)
支給日 (略)
当時、昭和五六年度協約交渉について、組合と会社との間で一部項目につき合意が得られず、そのため右協約の妥結に至っていなかったので、会社は、右「会社回答」の中で、「会社は、一九八一年度協約交渉の妥結を見るまでは、一九八一年度夏期一時金に関する交渉は行なわない」旨明記した。
3 その後の団体交渉、或いは都労委の調停の場でも前記一部項目につき合意に達することができず、組合は会社に対し、同年七月一〇日、「妥結通告について」と題する書面をもって夏期一時金について会社回答通りに承諾する旨の意思表示をした。
ところで、「労働協約は、書面に作成し、両当事者が署名し、又は記名押印することによってその効力を生ずる。」と労組法上規定されているところであるが、その法意は、労働協約が、労使間における法的なルールを形成するという重要な機能を営むものであることから、労使の紛争を予防するために書面による当事者の最終的意思の明確化をはかることにあると解され、したがって、書面の作成及び当事者の署名は、当事者の最終的意思を確認するための手段にほかならないから、往復文書のような場合でも、当該書面それ自体から当事者の意思の合致が確認される限りは、労組法上の労働協約としての効力を有するものと解するのが相当である。
これを本件についてみるに、「会社回答」及びこれに対する「妥結通告について」によって、組合と会社との間には、昭和五六年度夏期一時金に関し、基礎額(五月三一日現在の基本月給、住宅手当、家族手当及び運転手当の合計額)×三・五ヶ月ということで明確に最終的意思の合致があったということができるから、ここに、右内容の夏期一時金に関する個別的労働協約を締結したものということができる。
もっとも、「会社回答」の中には「会社は一九八一年度協約交渉の妥結を見るまでは、……一時金に関する交渉は行わない」との部分があるが、これは組合の要求が会社回答を上廻っていたために、「三・五ヶ月」をどこまで上積せするかについての交渉にすぎず、右の判断を左右するものでないことは明らかである。
なお、右にいう「基礎額」の金額は、昭和五六年度における賃上げに関する協約の成立(本件仮処分申請の許否を決定するうえにおいて、右協定が成立しているか否かは直接の問題とならないことは後記のとおりであるから、ここでは、右協約が成立したと解すべきかについては判断しない。)によって最終的には確定されるものであるが、債権者らが、本件仮処分申請において求めているのは、五月三一日現在、すなわち三月三一日現在の旧基本月給等を基礎とするものであり、右賃上げ交渉において、従前の基本月給等を下廻ることのないことは経験則上明らかなところであるから、基礎額の金額が確定していないことは前記判断を左右するものではない。
そうすると、債務者は債権者らに対し、昭和五六年度夏期一時金として前記「基礎額×三・五ヶ月」の金員を支払う義務があるものといわなければならない。
当事者間に争いのない事実と疎明によれば、三月三一日現在の債権者らの基本給、住宅手当、家族手当及びドライバー手当の金額が別紙のとおりであることが一応認められ、したがって、夏期一時金として債権者らに支給されるべき金員が少なくとも別紙一時金目録記載の金額となることは計算上明白である。
なお、疎明によれば、債権者らが賃金を唯一の生活の資とする労働者であり、他に見るべき資産を有しないこと及び一時金が生活費の一部をなしていることが一応認められるから、右一時金の支給につき本案訴訟による解決をまっていては著しい損害を受けることが推認され、保全の必要性がある。
よって、民訴法八九条を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 下山保男)
<以下省略>